考えたこと

小林勝彦の思考のブログ

「クリエイティブワーク〜デザイン産業に向けて舵をとれ〜」デザイン会社のパンフレット作成にあたって

デザイン制作会社の紹介パンフレットを刷新することになり、デザイン業務のあり方やデザイナーの労働観などについて、信ずるところをまとめました。これらの課題に向う態度を改めて表明したいと思います。

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デザインする態度

クリエイティブワークは未だ解決されていない問題に対して、正しいひとつの解き方を探し出す仕事だ。いろいろな結果に想いを巡らせ、いろいろな方法を考えて、想い描いたひとつの結果を得るため、その方法を実行する。

デザインの仕事では、たとえば会社のWEBサイトなどの案件において、その会社の認知度向上など、想定された目的(結果)のためのデザインがさまざまに検討され、そのひとつが使用(実行)される。もし想定された結果が得られると、それこそがデザインの「成果」となる。このように考えることで、デザインとは「成果」を得るために実行される方法に他ならないことが明らかになる。

だが、デザインの職能をもっと幅ひろくとらえる視点も同時に持ち合わせているべきだろう。それは冒頭のように、結果を想定することが重要なクリエイティブワークであるからだ。たとえば、どういった事業結果を求めるのかというプロジェクトのあり方自体をつくる仕事、コンセプトワークは十分にクリエイティビティを含んでいる。ここにデザインの職域が及ばないわけがない。デザイナーはこのような、狭義、広義の職能を胸の内に潜ませながら、多様な案件にあい対する態度を持つ必要があり、そうすることで仕事のやりがいは深くなり、志を高く持つことができるのだ。

 

観念からファクトへ

コンセプトは成果につながる考え方のことだ。ビジネスの成果をあげるためには、どんなプロジェクトでも少なからずなんらかのマーケティングを働かせ、コンセプトをたてていく。

“捕らぬ狸の皮算用“ということわざがあるが、これは、狩の前からもし何匹の狸を捕ればその毛皮は何枚になりこれだけ儲かりそうだと想定する“もし”の都合良さを皮肉っている。マーケティングはこれに似たところがあり、調査や分析でその“もし”を説明し正当化しても、本当に想定した結果になるかは保証されていない。だからマーケティングによってまとめられるコンセプトは、このプロジェクトを行えばこういった結果を得ることができるだろうという仮説、因果の概念だ。概念はそれ自身はかたちを持たず、やがて物事として実体化する前の考え方、観念である。

コンセプトを打ち立てて、実際の物事(ファクト)に変えるまでの全般に渡って、クリエイティブワークが発動するとの心得がクリエイターには必要だ。観念とファクト、これがクリエイターに求められる責任だ。

 

デザインは文脈づくり

デザインは目に見える造形の仕事として説明されやすいが、認識されにくいのが、そのかたちを構成しているコンテクスト(文脈)だ。

たとえば製品(プロダクト)のデザインにおいても、良いデザインはコンテクストが整えられている。コンテクストを文脈と訳すと、文章や文書のように、読んでいく時系列の順番としてのみに解釈されやすいが、人間が製品を使う時にもそれとは異なって働く文脈がある。製品のコンテクストは、その物理が人間の五感や心理にどう働くかをその順番のみならず、強さ、質、また使う人間の多様性も考えて構成されるべき、言わば工学的な文脈である。こう説明するととても難しく思えるが、デザイナーはこれを日常の仕事として行っているプロフェッショナルだ。つまり造形性も工学性もまるごと引き受けて取り組んでいるのだ。ただ現状では、特にグラフィックデザインにおいては、コンテクストの組み立て方でデザインを評価する視点はあまり見受けなく、造形性のみが注視されていることが多いのではないだろうか。このコンテクストはクリエイティブの目的、どんな結果を想定するかによって左右されるので、ビジネス目的ではマーケティングの戦略に有効に働くよう用いる必要がある。

このようにデザインを評価する場合には、造形性に偏らず、コンテクストをどう構成しているかという、工学性も含めた視点で行われるべきなのである。

 

クライアントがデザインを一番よくわかっている

ビジネス目的でのデザインは、マーケティング上の必要に照らし合わせて正しいコンテクストが要望される。だから、想定された結果を出すための方法であるデザインの正否は、基本的にデザインの使用者であるクライアントが一番よくわかっている。したがって、デザイナーはクライアントの事情によくよく精通すべきだ。クライアントの目的性が完全にデザイナーのものと同一になったなら、結果を導くための方法であるそのデザインは、前例のない正しさを持ったクリエイトとしてデザイナーによって保証される。そのような責務と尊厳を持ってデザイナーは仕事をすべきだ。そのような理想を目指してクライアントとデザイナーは共働すべきなのだ。

 

デザインビジネスの成立

クライアントが事業展開において経済を自律させる必要があるのと同等に、デザイナーも経済的自律がかなわなければ、いくら社会に有用なクリエイティブワークといえど、デザインビジネスを成立させ、いわんや発展させていくことはできない。

ここに長年の問題がある。それはデザインの仕事の対価が低く見積もられる状況が一般化されているという問題だ。この問題は、デザイナーという職業が登場しておよそ100年の総括が未だされていないことに起因している。デザイン業は近現代の経済展開の中で、他の産業発展のための露払いのような役回りであったのではないか。デザイン業が他の産業と並んで、いや他の産業にはできない、人間生活の暮らしぶりを上げる豊かさの提供という使命を、デザインというクリエイティブワークこそが担うことの評価を、デザイナー自身が持ち合わせていなかったのではないか。地域が大産業大経済の中央論理にクリエイティブワークのお手本を得て振る舞うことだけが、デザインビジネスの在り方だと取り違えてきたのだはないか。

この総括を経て、デザイン業を社会の豊かさに貢献する一翼を担う産業として確立させる強い理念を持ちビジネスに臨まなければ、クリエイティブワークとして誇るべきデザインビジネスの成立はほど遠いのである。

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