考えたこと

小林勝彦の思考のブログ

「自由とは、好きなことを思いどおりにやることじゃない〜感動の復活を果たした水泳オリンピアから学ぶ自分から周りへの意識、自由へ向かう自律〜」令和3年入学式告示

本年も入学式は複数回に分けて対策。また本年も、未来に向けて眩しいほど揚々たる学生に、自由、自律の必要を告げました。かつて本校で学び卒業していった同胞が実践している、主体性へのリスペクトを込めての投稿です。

f:id:allofme129:20210629193113j:image

<長野美術専門学校入学式 告示より>

目的に向かうプロセスが成果を生む

本校はクリエイティブこそ社会形成の要であることを信じて、社会に創造性の育まれる必要を表明しつづけています。
クリエイティブワークは未だ解決されていない問題に対して、正しいひとつの解き方を探し出す仕事です。いろいろな結果に想いを巡らせ、いろいろな方法を考えて想い描いたひとつの結果を得るためその方法を実行する。デザインの仕事では、たとえば会社のWEBサイトデザインなどの案件において、その会社の認知度向上など、このようになると良いと想い描いた結果のためのデザインがさまざまに検討されそのひとつが実装される。もし想定された結果が得られると、それこそがデザインの「成果」となる。このように考えることでデザインとは「成果」を得るために実行されるプロセスに他ならないことが明らかになるのです。

アーティストは世の中を代表して世界の謎解きをしている

それではアートの成果とはなんでしょう。アートは未だ解決されていない問題自体をみつける仕事。謎だらけの世の中にあっては問題もまた限りありません、アーティストは時間と言う問題に対しても、また人間に対しても、そして命そのものに対しても通常の生活で行なわれている方法とは違うやり方で世界を観て、表わそうとします。アーティストの表現を受け取った人が、それによって、ああ世界とはこういうものだったのかとその意味を知ることができる。アートの「成果」は世界の謎解きにあるのです。

クリエイターに自由を感じるのはなぜか

クリエイターは奇抜なことを勝手にやる人のように誤解されることがありますが、そうではなく、本当の自由を発揮している人です。クリエイティブの成果はまさに本来の自由のなせる技なのです。自由についての哲学者カントの教えは「自由とは好きなように思い通りに行動することではない、自由とは誰かに命令されることではなく、自らの意思で自らを律して生きることだ」と言っています。カントを待つまでもなく我々には自律、自分を律することが必要です。今、我々は他律に迫られています。間違えないこと、画一的であること、時間通りであることを求められ続けています。ともすれば我々は他に律しられなければやっていけないようにさえなり、言ってしまえばそれによって“お客様気分”を醸成されているのです。“お客様気分”というのは、主体性のなさを表したものですが、その時その場に置かれた状況を優先、いやそれが活動規範の全てとなり、いわば自己が状況に支配され、恐ろしくも正当を確信しているように振る舞う。我々にはいつの間にか、自分ではない誰かがなんとかするというバイアスがかかかってしまったのではないでしょうか。そうだとすればこれこそが自由の放棄に違いありません。しかし他律より自律、このことを信条としている一群が昔からいます。彼らこそがクリエイターなのです。彼らの信条は主体性です、それは自主性とは違う性質で、人間の考えかたや行動の自由な性質のことです。クリエイターに相対した時、彼らに自由を感じるのはそのためなのです。

復活を果たしたアスリートに学ぶ

クリエイターはまた、好きなことだけ自分のことだけを考えているように思われがちですが、これもそうではありません。トップアスリートとして復活を果たした池江璃佳子選手がこういっています。「病気になる前はアスリートとしての自分のことしか分からなかったから、自分が自由にプールにいることとか、生きているって言うことが当たり前だったから、自分がとにかく強くなることだけを考えて過ごしていたけれど、病気になってアスリートとしての池江璃花子と、病気を患った池江璃花子という二人の人間がいることによって、本当にたくさんの人の気持ちがわかるようになった」と、彼女から学ぶことが出来るのは自分から周りへの意識の育ちだ。池江選手はまたこうも言っている、自分が泳いでるだけで勇気をもらったという人がいるが、よく考えたら私は周りの人たちのために泳いでるわけじゃなくて、自分が水泳が楽しいから泳いでるわけであって、人に左右される話ではないかなって言うふうに思っています」と。ここで学べるのは周りを意識した上での彼女の自由さだ。成熟したクリエイターにもこのアスリートが達した境地と同じく、周りへの意識があります。クリエイティブの学びの途上では、「自分から周りへ」このキーワードを心に刻んで本当の自由を獲得していきたいものです。

長野美術専門学校では、学生にこんな力をつけて卒業して欲しいという、修学の目標を表明した、デュプロマポリシーを三つ定めています。その一つ目は「構想力」、続いて「主体性」、三つ目は「展開力」というものですが、ここには自由の獲得という大義が込められています。

学校は「自分から周りへ」と成長していく学生を目一杯支援します。皆さんには本校で本当の自由を手に入れて欲しい。このことを願います。

f:id:allofme129:20210629193224j:image